小池光歌集『梨の花』(11/11)
■その他
最後になるが、これまでに取り上げなかった技法の歌をいくつか取り上げる。
*比喩: 『梨の花』では「ごとし」を用いた直喩が目立つ。
黒雲のしたに梨の花咲きてをりいまだにつづく昭和の如く
ひとふくろの蜜柑のなかに黴(かび)ふける一個ありたりさながらにわれ
わが希(ねが)ひすなはち言へば小津安の映画のやうな歌つくりたし
*擬人法: 親近感、ユーモアをおぼえる。
新春のひかり受けむとおのづからシクラメンの鉢が窓の辺(へ)に寄る
高速道下の小公園にブランコはたつたひとりの子を座(すわ)らする
日のあたる卓のうへにはしづかにもものおもひする冬の蠅ひとつ
*とり合せ: 「捻れ」をもたらす接続法に惹かれる。
ピラカンサの赤実を夕日照らすとき癌に倒れし島倉千代子
いただきに夏雲かかる筑波山見えてあたらしき死者のいくたり
かたはらを立ち去りゆきしいのちいくつ秋明菊は庭に咲き初む
*掛詞: 『梨の花』での例は少ない。
もしわれにいもうとをらば春咲きの桃井かおりの年齢(とし)くらゐなる