台風・出水(でみず)
台風が連続した上に大雨が降って、河川の氾濫数知れず、復興はままならない。テレビのニュース映像では、災害状況の報告が絶えない。短歌や俳句の季語は、季節を代表する景物で成り立っているが、現代の気象変化・文明の進歩には追い付かない面がある。
出水は、従来梅雨時期の洪水を代表する夏の季語であった。雪解けによるものは春出水とし、今回のような秋の台風や大雨による洪水は、秋出水とすることになる。ちなみに台風は秋の季語。台風のもたらす災害は、颱風禍が季語にある。ところで、颱風という言葉が使われ始めたのは、明治時代末期に当時の中央気象台長の岡田武松による。颱風の語源は、台湾や中国福建省にあるらしい。またアラビヤ語やギリシャ神話とも関連あるという。日本では、古くから野分と呼んだ。実にリアリティのある言葉だが、少しみやびで大災害を連想しにくい。
干竿の落ちて流るる秋出水 篠原温亭
秋出水蛇居て去らぬ竈口 萩原麦草
くちなはも流れ着くなり秋出水 中村苑子
光つつ仏壇沈む秋出水 東條素香
颱風の名残の驟雨あまたたび 高浜虚子
颱風や守宮(やもり)は常の壁を守り 篠原鳳作
颱風圏放置されたる耕耘機 山崎矢寸尾
あさぢ原野分にあへる露よりもなほありがたき身をいかにせむ
新勅撰集・相模
颱風の眼に入りたる午後六時天使領たるあをぞら見ゆる
小池 光