小池光の短歌―ユーモア(2/26)
◆副詞(句)1/4
胸のべの丈に咲きたるあぢさゐの毬のおもたさいきなり信ず
『バルサの翼』
濡れてゐる革手袋のおきどころふとこの家のいづこにもあらず
『廃駅』
わが少女、神を讃へてややもすれば常軌を外(そ)れてゆく気配あり
『日々の思い出』
うちつけに眼をあげたるに体育館の円蓋の雪、がくりとうごく
さなきだに壁蝨(だに)に蛹(さなぎ)はあるものか闇の障子をわが打ち破る
父の愛(め)でたるインヴァネスとていかんせん空を翔ぶにはおもきに過ぐれ
あたまにはもちろん帽子おちやわんに葡萄酒そそぐ丑三つのころ
まざまざと冷えて地に立つ二本の臑(すね)わが妄執はそのうへに乗る
さしあたり用なきわれは街角の焼鳥を焼く機械に見入る
どんぶりはまごふかたなき悲の器(うつは)あは雪すくひ来たるを容れて
なんぢらの父はいよいよ病気ゆゑ三月九日夜の紅パジャマ
抜き味といふことありて青畳匂へるなべに鼻毛を抜くも
犀の子のすでにくまなく犀なるを或る感動をもちてわが見つ
黄水仙の花もろともに写さるる朝の鏡に髭剃るわれは
神経の赤色痙攣はひとしきり笑ひとなりてわれを揺るがす
[注]上の歌に続く作品が、同じ歌集にある場合は、歌集名を省略してある。
つまり歌集名のない歌は、その上の歌集名に同じということ。