小池光の短歌―ユーモア(4/26)
◆副詞(句)3/4
粟つぶほどの熱心もなくなりてのち教ふる技(わざ)はいささかすすむ
『滴滴集』
蟻がくることやたらに恐れわらび餅きなここぼさぬやう食ふあはれ
こちらに振りむきしとき人ひとりまさしく桃の木の下にをり
和風喫茶に白玉だんご食うてゐつ男の孤独かくもまどかに
人にいふことにあらねどなにげなし躑躅と髑髏かんじ似てゐる
わが友は偉くなくとももののはづみに「花を買ひきて妻としたしむ」をする
それはもうしばらくぶりに食ひにけるなまの雀に気ふれむばかり
井伏鱒二『丹下氏邸』の日本語はであひがしらにわれ驚かす
「太初(はじめ)にことばありき」あんめれ鉄砲水と水鉄砲はほとほと違ふ
目と目とが合ひしばかりに武富士のティッシュはまたもくばられてしまふ
『時のめぐりに』
注文取りいつまでも来ぬときの間はことのほかにも寂しきものを
電気ゴタツの赤色輻射の中にあるとはに二本の足を悲しむ
人間はもののはづみにドロップの缶の出穴をのぞくさへする
一九八0円の扇風機よく回りしかもあたまさへ振る
尻ポッケよりつひに引き出すいちまいの福沢諭吉は笑ふがにぬくき
眼球底に圧搾空気うちこまれ例のごとくにわがおどろける
唐九郎転じてどくろとなりぬるともののはづみにわれ言はむとす
『山鳩集』
三春滝桜のつぼみいつぽん折り取りてわれはたちまち財布にしまふ
キオスクで売つてゐるなり茹卵(ゆでたまご)突発的に買ふ人のため