天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(6/26)

◆助詞・助動詞
  日の恋しき頃となりつつおほははが赤(あか)毛布(げつと)と言ひし赤毛布かな
                         『日々の思い出』
  わけのわからぬ物質潜む小枕に大事なあたまをのせて冷やす  
  隣人は壁のむかうにさまざまな魚類を泳がせつつゐるらしも
                            『草の庭』
  逆光の床のうへにて仁丹のひとつぶこそははげしく弾む        
  そんだからおまへはダメだつてんだよ、となどいひながら赤ママチャリに
                             『静物
  まひるまの目撃にして赤椿ことりシトロエンのボンネットに落つ    
  灰皿の中に落ちたるひとつぶの干葡萄をばながく惜しむ  
                         『時のめぐりに』
  わが毛髪おどろくばかりほそくなり春風にうち靡きさへする
  わがからだばらばらになるくらゐまでいきどほりして夜を迎ふる
                          『思川の岸辺』
  いただきし鱧(はも)鍋セット火にかけて食のたのしみ今宵来(きた)る 
                            『梨の花』
  文具用鋏をもちて伸びきたる白(しろ)毛(げ)まじりの鼻毛を剪(き)る      
  絨毯のうへに落ちたる鉛筆は音もたてずに落ちたりしのみ     
  天理教分教会の庭しづかにてハクモクレンの花満開とのみ     
  おもひ出づるまでに遠くに母ありて週にいちどをわが訪へるのみ 

 

[註]
  つつ: [接続助詞]動詞、動詞型活用助動詞の連用形について、
       「・・ながら」を意味する。
  こそ: [係助詞、終助詞]強めを表す。
  のみ: [副助詞]限定や強意を表す。
  まで: [格助詞]到達する場所・地点を表す。時間・範囲の限界を表す。
      [副助詞]程度や強調を表す。(文末では)それ以外でない意を示す。
  をば: [格助詞を+係助詞は]連語。「を」で受ける語を特に取り立てて
       強調する。
  さへ: [副助詞]・・・まで、そのうえ・・・まで。

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歌集『梨の花』