天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(9/26)

◆リフレイン(念押し、冗語)2/2
  瓶覗色を見むとて首のべて瓶のぞくひとを実直といふ    
                     『時のめぐりに』
  馬の名の「チカテツ」にわれおどろけば「ヒコーキグモ」に更に驚く
  「子供より親が大事、と思ひたい」さう、子機よりも親機が大事 
  ヌードルに「かやく」を乗せて湯そそぎすかやく火薬と人なおもひそ 
                        『山鳩集』
  扇風機の風よろこべど人の世はああ灰皿の灰がちりとぶ      
  アセチレンボンベにすがり立ちてゐる酸素ボンベも旅愁といはむ  
  「莫大小」読めまい読んで読めたとしそれがなんだかきみらは知らぬ 
  猿のお面(めん)やをら外せば本物の猿あらはれぬああお正月   
                      『思川の岸辺』
  タラバ蟹の一本の脚を抜きて食ふ口腔ふかくふかく笑ひて    
  かなしみの原型としてゆたんぽはゆたんぽ自身を暖めてをり   
  みぎの手は左手を助けひだりの手右手を助く沁みておもへる   
  安芸の宮島を秋の宮島と長い間(あひだ)おもひをりけりわらわばわらへ  

  家裏のどくだみ群落はきみを苦しめききみなきいまはわれが苦しむ 
  眼前に落ちて来たりし青柿はひとたび撥ねてふたたび撥ねず   
  ところてんひとたび食ひてふたたびは食はずに来たり五十余年を 
  つひにしてかかとに穴のあきたりし毛糸靴下を惜しみ惜しみ捨つ 
  足の爪赤く塗りたる姉むすめ青く塗りたる妹むすめああ   
                        『梨の花』
  来年秋の講演依頼きたりけり来年秋のわが身を知らず       
  蹄鉄師といふ職種あり馬の足とみればすなはち蹄鉄を打つ    
  金之助といへる金魚を飼ふひとと新年会にて挨拶かはす     
  お父さん、鼻毛出てると夏はいふいくたびもいふ会ふたびごとに 

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歌集『山鳩集』