小池光の短歌―ユーモア(15/26)
◆主体のとり方(体の部分、人間以外)1/2
蜂蜜のこごりを溶かす湯気に濡れこの夜半の鼻、もつとも愚か
『廃駅』
夕暮るるあめの一日や革靴の量(かさ)のふくるるその中の足
『日々の思い出』
いちめんに椿の花が落ちてゐて来りし犬は憂ひをかんず
豆腐屋のまへわが来ればバーナーの青き炎は豆腐を焼けり
神経の赤色痙攣はひとしきり笑ひとなりてわれを揺るがす
猫の毛のぼろぼろとなりしものぞ行き路地のおくにてカラオケきこゆ
『草の庭』
ブランコの垂れたるしたにみづたまりかならず置きて雨はれにけり
川しもに傾きふかく杭はたつ降りくる脚をせつにもとめて
欄干にひとつ立つたる空きカンにおのづとすでにわが足の寄る
ウォークラリー「武蔵野十里」は出発すひたぶるに動く足を集めて
階段をのぼり来たれる足音が扉(とびら)のそとにはたして止まる
ゆつくりとカナリヤの首がふりむけば鳥屋主人のかほ、そこに在り
嘴太のくろびかりせる一体が擬(ぎ)木(ぼく)の棚に降りてをるところ
『静物』
その鞄われに持たれてとしふりぬ遠くの虹を見たりなどして
痛みさすひだりの肘におのづから右のてのひら行きていたはる
『滴滴集』
一九八0円の扇風機よく回りしかもあたまさへ振る
『時のめぐりに』
つくゑよりころがり落つる丸薬は日本万歳と言ひにけらずや
『山鳩集』