天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(17/26)

◆把握・認識の仕方 1/2


  縞馬の尻の穴より全方位に縞湧き出づるうるはしきかな   
                         『廃駅』
  しろたへの生クリームは漲りてココアの熱きおもてを閉す
                     『日々の思い出』
  わけのわからぬ物質潜む小枕に大事なあたまをのせてぞ冷やす  
  ビニールに鰯を入れて下げて来ぬアジアの果てのたそがれの人  
  ひと夜さに回り灯(どう)籠(ろ)をまはしたる小電流はいづこに行きぬ    
  どんぶりはまごふかたなき悲の器(うつは)あは雪すくひ来たるを容れて  
  立つてゐるその老人は消火栓にあらざれば毛の帽子かぶれり   
  鉢あれば飼はねばならぬ金魚ゐてかかる構造に家、こども持つ  
  隣家なる「家庭の事情」のもの音をアルミ・サッシュの窓閉じて絶つ
  耳の穴に器具挿入しあますなく音注入すそれウォークマン 
                        『草の庭』
  隣人は壁のむかうにさまざまな魚類を泳がせつつゐるらしも     
  ブランコの垂れたるしたにみづたまりかならず置きて雨はれにけり  
  壺的なうつはより箸にとりあげてほのぼのしろきうどんを啜る    
  暖かき空気みちたる雨の夜の空気ぶくろをわが抱き寄せぬ      
  ひとところ冬日のたまる枯芝を猫のかたちは横ぎりゆくも 
                         『静物
  苔のうへにこもれびの日が差すところ腹ばひゐたり猫のすがたに   

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猫の姿