天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(22/26)

◆比喩
*意外なとり合わせがポイント

 

  炎昼の鬼ゆりをうつ黒揚羽阿鼻叫喚のごときしづけさ    
                          『廃駅』
  ひつそりと生馬のやうな夕闇がゐたりポストのうしろ覗けば     
  札びらを数ふる如く書き上げし原稿紙数を数ふるあはれ 
                      『日々の思い出』
  真昼間の寝台ゆ深く手を垂れて永田和宏死につつ睡る      
  なまぐさくなるべくしてなりてむすめ二人をりをり火のごとく父を避く
                         『草の庭』
  頬ばりしひとつ氷のかたまりにしばし難詰されゐるごとし 
                          『静物
  イチローが三割二分に到達し本領安堵のごときおもひす    
                         『滴滴集』
  机のへりにひつかかつてゐる雑巾の哀願のフォルムをしばらく見たり 
  人心のかぎりをつくし福沢を夏目にかへるプロセスが競馬 

  *福沢(諭吉): 一万円紙幣 の暗喩
   夏目(漱石): 千円紙幣  の暗喩

     
  尻ポッケよりつひに引き出すいちまいの福沢諭吉は笑ふがにぬくき
                      『時のめぐりに』
  未発表の歌百首ばかりたまれるは財布に金の唸(うな)るがごとし 
                         『梨の花』

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黒揚羽