天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

楽器を詠むー琴(2/3)

  亡き人は音づれもせで琴の緒をたちし月日ぞかへり来にける
                   後拾遺集藤原道綱
*「琴を弾いても、亡き人は戻ってくることはないのに、琴の弦を断ったその命日が再び巡ってきました。」

  琴の音は月の影にもかよへばや空にしらべの澄みのぼるらむ
                  金葉集・内大臣家越後
  むらさきの雲路にさそふ琴の音にうき世をはらふ峰のまつかぜ
                     新古今集・寂蓮
*「紫雲のたなびく中、極楽浄土の道にさそう琴の音に、憂き世の悩みを吹き払う峰の松の音が聞こえる。」

  わび人の住むべき宿と見るなべに嘆きくはへる琴の音(ね)ぞする
                        遍照
*なへに : ~するにつれて
 「寂しく暮らしている人の家だと思って見ていると、そこに嘆きを加える琴の音が聞こえる。」

  松風のひびきも添へぬひとりごとはさのみつれなき音(ね)をやつくさむ
                       西園寺実宗
*「ひとりごと」は、「独り言」と「ひとり琴」とを掛けている。この歌に限らないが、すでに見てきたように、松風の音と琴の音とを組み合わせる歌い方は、和歌の常道であった。

  ひと張(はり)の琴かき鳴し中人(なかうど)と無くてめとりしあはれ我妻
                       与謝野鉄幹
*中人(なかうど)とは、結婚の媒酌人のこと。

  春三月(みつき)柱(ぢ)おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪
                       与謝野晶子
*琴の柱(琴柱(ことじ)):  和琴(わごん)および箏(そう)で、胴の上に立てて弦を支え、その位置によって音の高低を調節するもの。

  今の我に歌のありやを問ひますな柱(ぢ)なき繊(ほそ)糸(いと)これ二十五弦
                       与謝野晶子 

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