楽器を詠むー琴(3/3)
悲しとてわれと断ち得ぬ琴の緒のかぼそきだにも惜しきいのちや
相馬御風
*われと: 自分から進んで。みずから。
箜篌(くご)の音(ね)を聞くと夢みし常盤樹(ときはぎ)のこの林にか君おはすべき
平野万里
*箜篌: 東洋の弦楽器の一つで、琴に似た臥(ふせ)箜篌、ハープに似た竪(たて)箜篌、先端に鳳首(ほうしゅ)の装飾のある鳳首箜篌があったが、早くに滅びた(デジタル大辞泉より)。
琴柱(ことぢ)たて風にまかせてゐたりけり冬枯の丘にひびく空(そら)鳴り
五島美代子
*冬枯の丘にひびく空(そら)鳴りに合わせて琴が風に鳴ることを期待したか。
裾ふれしときにかそかにひびかえば琴は横たう寒の畳に
清原日出夫
*琴に着物の裾をふれさせて音をたてたいために、畳に横たえるのだろう。寒い部屋がかすかに暖かく感じられる。
膝の上に琴傾ぶけてひくをとめ伽倻(かや)の都のものがたりせよ
岡野弘彦
*伽倻: 古代、朝鮮半島南部にあった小国家群の総称。日本書紀に記述される広義の任那(みまな)の地にあたる(デジタル大辞泉より)。
耐へかねて鳴り出づる琴があるといふあああれは去年(こぞ)の秋のわたくし
稲葉京子