楽器を詠むー太鼓
太鼓は、奈良時代に雅楽と共に渡来した。空胴の片側か両側に革を張りバチで叩きならす。
この寺の時の太鼓は磯の浪おきしだいにぞ打つといふなる
足利義輝
*「磯の浪」は、「おき(沖)」を導く序詞。そして「おきしだい」は「起きしだい」を意味する。
小夜ふけて角の芝居の果太鼓かなしく水にひびき来るとき
吉井 勇
*果太鼓: 芝居、相撲などの興行の終わりに打つ太鼓。仕舞太鼓。
祭屋台の傍(そひ)ゆくとき不意に楽高まりあはれ日本の笛・太鼓
田谷 鋭
秋の夜のハリ戸を叩く冷雨冴え後シテをまつ野守の太鼓
馬場あき子
*能の『野守』を踏んでいるのだろう。そこでの後シテは鬼。
太鼓うちつついつしかにうたれいる太鼓ぞわれはこの日も夜も
田井安曇
うつうつと性の太鼓のしのび打ち人生がもし祭りならば
岡井 隆
太鼓の緒きりりきりりと締むる音痛みと思ふひと刻のあり
槙 弥栄子
日本の太鼓の醍醐味打ち響(とよ)む所作・見得・閑寂(しじま)うたぬことよき
岩田 正
*日本の太鼓の醍醐味は、打たぬ間の所作・見得・閑寂にあるという。よく分る。
[注]2016年3月18日のブログで、本稿の歌のいくつかをすでに紹介済みだが、今回は注釈を二、三加えた。