天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

楽器を詠むー琵琶

 琵琶は、奈良時代にインド・西域・中国を経て我が国に輸入された。古くは「よつの緒」とも言った。普通は四弦。平家琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶 など。 

  流れくるほどのしづくに琵琶の音をひきあはせてもぬるる袖かな
                       源 俊頼
*悲嘆に暮れている情景。源俊頼は、平安後期の歌人。王朝和歌に新展開をもたらす精力的な歌壇活動を展開し,のちに藤原俊成を通して中世和歌へと引き継がれる(百科事典マイペディアの解説から)。

  よつの緒に思ふ心を調べつつひきありけども知る人もなし
                       平 兼盛
平兼盛は、平安中期の歌人三十六歌仙の一人。「忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで」《拾遺集》が特に有名。

  道をゆづる君にひかれて四のをのそのねもたかきなをぞあげぬる
                   玉葉集・藤原道長
  よつの緒のしらべにそへし松風は聞きしにあらぬ音にやありけむ
                   新葉集・嘉喜門院
*琴の奏でる音楽と松風の音とのコラボは、よほどすばらしいものであったのだろう。
嘉喜門院は、南北朝時代歌人だが、琵琶の名手でもあった。

  弓張の半ばの月の影よりもなほすみまさる四つの緒の声
                新続古今集・御小松天皇
  雲の上の半ばの月にひかれてや四つの緒までも声はすむらん
                新続古今集・義仁法親王
*前の歌同様に、月と琴との取合せで、いかにも王朝風。


  蘇芳(すほう)染(ぞめ)螺鈿(らでん)の琵琶の捍(かん)撥(ばち)に人描かれて
  ものいはんとす              服部嘉香


  琵琶弾きて駱駝に乗りて何處までも行かん姿勢にて千年を経つ
                      太田絢子
正倉院宝物の螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごげんびわ)を見ての詠草であろう。

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琵琶