天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

楽器を詠むーピアノ

 ハープシコードが弦を引っかいて音を出すのに対して、ピアノは弦をハンマーで叩いて音を出す。ピアノは音域が広く、独奏楽器としてはもちろん、伴奏、合奏のいずれにも高い能力をもつ。

  ピアノの音(ね)澄みて高まりゆくときに菜種咲く野をわれは思へり
                      柴生田稔
*下句は、人それぞれに思うことがある。この歌でそれぞれを思い出すことだろう。

  洋館の椿をゆする疾(はや)ち風ピアノ鳴りつつ弾(だん)音(おん)はやし
                      中村憲吉
*上句の疾風の音とハイテンポのピアノの旋律とがよくマッチして、情景が鮮やかに想像される。

  革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ
                      塚本邦雄
塚本邦雄の高名歌、前衛短歌の代表。句跨がりとア母音の韻律の効果。

  魂のふかきをののき聴くごとくこの一瞬をピアノの音ひそまる
                      石川恭子
*ピアノの音がひそまる一瞬の心象を直喩したのだ。

  蔽はれしピアノのかたち運ばれてゆけり銀杏のみどり擦りつつ
                      小野茂
  ピアノ弾く爪先点れるごとく見ゆ黒きアメリカ人の左手
                     阿木津 英
  カーテンのすこしふくらむときのまを凍ったピアノにあさの陽はさす
                      加藤治郎
*「凍ったピアノ」は何の暗喩であろう? 夫婦喧嘩でもして気まずくなった空間かな?

  見えてゐる世界はつねに連弾のひとりを欠いたピアノと思へ
                      荻原裕幸
*「見えてゐる世界」は、不完全なものと思え、という認識。

  鍵盤に指をあつめておりてゆくピアノとふ年月の深井戸を
                     河野美砂子
*河野美砂子は、立派な経歴をもつピアニストである。長年の演奏や作曲の経験を振り返った時の感懐を詠んだ作品であろう。

  おとうとのエレクトーン練習指導して姉はピアノに伴奏したり
                      天野 翔

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弟のエレクトーン、姉のピアノ