天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

憂い・鬱(1/3)

[注]「千鳥のうた」はすでに掲載済みでしたので、削除しました。失礼しました。

 

 「憂い」は、物事が意のままにならないのを嘆き厭う心情である。心配、不安、憂鬱など心の晴れない状態を意味する。形容詞の「憂し」は、いとわしい、不愉快、つらい、みじめ、気に入らない、無情などを表す。

  世間(よのなか)を憂しとやさしと思へども飛び立てかねつ鳥にしあらねば
                     万葉集山上憶良
*この歌の「やさし」は、「恥し」で、つらい、肩身が狭い、たえがたい などを意味する。
 「世の中は、厭わしくたえがたいが、鳥ではないので、飛び立って行くことができない。」

  憂き事のまどろむほどは忘られて覚むれば夢のここちこそすれ
                   千載集・よみ人しらず
*「心配事を眠っている時には忘れることができて、目が醒めれば夢の中の出来事のように思える。」

  せく水もかへらぬ浪の花のかげ憂きを形見の春ぞかなしき
                    拾遺愚草・藤原定家
*「せき止めても返らない水の波に流されていった花の面影がつらい形見として残っているこの春は何とも悲しい。」

  頼めねば人やはうきと思ひなせど今宵もつひにまた明けにけり
                     玉葉集・永福門院
*頼みにできないので、あの人は厭わしいと思いなしたが、今夜もついに明けてしまった。
 といった内容だと思うが、どうも上句と下句の関係がつきにくい!

  たでの花ゆふべの風にゆられをり人の憂(うれひ)は人のものなる
                        佐佐木信綱
  今を憂へ古へを談ず一もとの庭の柿紅葉に午後の日あかし
                        佐佐木信綱

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浪の花