憂い・鬱(2/3)
古へも人の憂ひはつまびらかに伝ふならずとひとり思へり
吉田正俊
東京の街のうれひの流るるや隅田の川は灰色に行く
岡本かの子
*隅田川の灰色の川面と東京の街の憂いは素直につながる。
いつまでも心熟れずて年々に憂ひを置きにくる山の宿
竹村紀年子
*山の宿の常連さんには、憂いの日常をおくっている人たちがいるのだ。
日輪の沈む涯(はたて)に時ならぬ時の生(あ)れくる春への愁ひ
佐田 毅
憂ひ顔並ぶ病院出でしとき桜一樹が「おー」と声上ぐ
星谷亜紀
*下句がどのような感情を表現しようとしているのか不明。作者が無事であることを、桜が喜んでくれたのだろうか?
鬱々と通る道のべけだものの犬はその仔をいつくしみをる
田谷 鋭
うつうつと病みつつ昼をみてゐる画ルオーの「草に泉の囁くが如く」
木俣 修
*上句は作者の状況。ルオーの画「草に泉の囁くが如く」に上句の情景が書かれているわけではないだろう。