身体の部分を詠むー顔 (5/7)
わが顔に月の光の差したれば流離の如き思ひに目覚む
黒田淑子
*流離とは、故郷を離れてあちこちをさまよい歩くこと。月光の下に佇んでいた時に湧いた感情だろう。
さしのぞく深井の底に映れるはいづこより来し小さき顔ぞ
伊藤雅子
見るたびに顔のちひさくなる叔母が今日もの言はず鳥眸(てうぼう)をせり
柏崎驍二
*「鳥眸」という言葉は、作者の造語か? 一般の辞書には載っていない。鳥のような表情をした、ということだろう。
顔がなくなりし仏像を論じいる 顔をなくすことはたやすい
高瀬一誌
*下句の意味するところをどのように解釈するか? 変装する? 失踪する? 個性を隠す? 仏像の顔との関係は?
写されしわが顔みれば温厚を装ひをれど厳しさがある
岡崎桜雲
水差しと洗面器を背後に窓辺にてどこか遠くを見てゐる横顔
福井有紀
歌が良く性格よくば顔などはどうでもよしと言へば嘘になる
高野公彦