天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー顔 (5/7)

  わが顔に月の光の差したれば流離の如き思ひに目覚む
                       黒田淑子
*流離とは、故郷を離れてあちこちをさまよい歩くこと。月光の下に佇んでいた時に湧いた感情だろう。

  さしのぞく深井の底に映れるはいづこより来し小さき顔ぞ
                       伊藤雅子
  見るたびに顔のちひさくなる叔母が今日もの言はず鳥眸(てうぼう)をせり
                       柏崎驍二
*「鳥眸」という言葉は、作者の造語か? 一般の辞書には載っていない。鳥のような表情をした、ということだろう。

  顔がなくなりし仏像を論じいる 顔をなくすことはたやすい
                       高瀬一誌
*下句の意味するところをどのように解釈するか? 変装する? 失踪する? 個性を隠す? 仏像の顔との関係は? 

  写されしわが顔みれば温厚を装ひをれど厳しさがある
                       岡崎桜雲
  水差しと洗面器を背後に窓辺にてどこか遠くを見てゐる横顔
                       福井有紀
  歌が良く性格よくば顔などはどうでもよしと言へば嘘になる
                       高野公彦

f:id:amanokakeru:20200106000212j:plain
f:id:amanokakeru:20200106000228j:plain
水差し & 洗面器