身体の部分を詠むー顔 (7/7)
死に顔は誰にも見られたくなし思ふにいつも列車に眠る
草田照子
*眠っている顔なら見られてもよい、のだ。
つぶし来し苦虫の骸(から)つまるらむ鏡に映る顎のたるみに
安田純生
*「苦虫をつぶしたような顔」という日常表現をもとにしている。
老顔をかかげて巷行くこともあと幾ばくの時日なるべき
清水房雄
*清水房雄はアララギ派歌人で、101歳の長命であった。宮中歌会始選者も務めた。
魂の最も深きところより滲み出る部位を顔とし寫す
佐々木六戈
*心の状態が顔の表情に現れる。
山峡をゆられて走る列車にていつしか化石となりてゆく顔
藤岡武雄
*どこに行こうとしているのかが気になる。楽しい場所ではなさそうだ。
突起物無き側面のはしつこに車掌の顔がひとつ出てゐる
風間博夫
*列車が駅に近づく時や駅から出発する時によく見かける。懐かしさを感じる情景。
地球(テラ)の危機のニュースを横目にとりあえず鏡の貌のシミが気になる
小山亜起子
化石より復元されし肉食の恐竜の顔にあきらめを見る
廣瀬美枝
生前の顔も死に顔も、自分の顔は気になるものだ。