天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー耳(2/7)

 耳順、空耳といった熟語があるが、口の熟語に比べるとはるかに少ない。

  人の群うごける十字路さみしきにその厚き耳その薄き耳
                      葛原妙子
*十字路を行き交う人々のそれぞれの耳に注目した。

  桃色の二つの耳を飾りゐて春のうさぎ我をはにかませ居り
                      斎藤 史
  わが耳に山の落葉の音積る これの一夜ののちの百の夜
                      斎藤 史
*秋の夜長に実際に何度も落葉の音を聞いて得た感想だろう。落葉の音から単純に残生を要約した凄みがある。悟りでもある。

  耳を切りしヴァン・ゴッホを思ひ孤独を思ひ戦争と個人をおもひて眠らず
                      宮 柊二
  採血の済みたる耳を抑へ戻る二十年斯く切られの柊二
                      宮 柊二
宮柊二の戦争体験が、彼の人生を大きく支配したことを思う。

  切り株につまづきたればくらがりに無数の耳のごとき木の葉ら
                      大西民子
  眠れる間も声を求めて醒めてゐる耳といふもの二つ身に持つ
                      大西民子
  手に重き埴輪の馬の耳ひとつ片耳の馬はいづくにをらむ
                      大西民子
*大西民子の三首からは、人間に生れた孤独が感じられる。結婚したが男児を死早産、夫とはやがて協議離婚。「欠落への関心」が短歌のテーマになった。

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うさぎ