天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー髪(3/13)

  朝に結び夕べとき寝む黒髪におのれすがしむ夏さりにけり
                        杉浦翠子
*杉浦翠子(すいこ)は、北原白秋に入門、大正5年にはアララギに入会、斎藤茂吉に師事する。しかし激情的な翠子はアララギの編集兼発行人・島木赤彦らに疎まれ、翠子は大正12年アララギを退会、社会性・批判精神を欠如したアララギの短歌を批判した。

  捨てられし人のごとくに独(ひと)り居て髪などとかす夜の淋しさ
                       岡本かの子
  いとせめてすこし心のなやみさへ落つるものかと髪あらひけり
                       岡本かの子
岡本かの子は、漫画家岡本一平と結婚し、芸術家岡本太郎を生んだことで知られているが、一平の放蕩や自身の浮気、家族の死去などの不幸が重なり、仏教に救いを求めた。享年49。

  はなれてゐる子の面影はあざやかに髪さへをどり目の奥に棲む
                       五島美代子
  ひたひ髪吹き分けられて朝風に物言ひむせぶ子は稚なし
                       五島美代子
  深ぶかとうつむく時に子の髪は髪がもの思ふ如くゆれつつ
                       五島美代子
*五島美代子は、成長する我が子に対する愛情、喜びなどを歌にし、「母の歌人」と呼ばれる。急逝した長女を歌った哀惜の情あふれる歌はよく知られている。

  山坂を髪乱れつつ来しからにわれも信濃の願人の姥
                        斎藤 史
*願人: 祈願する人。

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山姥 (WEBから)