身体の部分を詠むー髪(7/13)
逆光の少女らの髪むらさきに目守(まも)りゐき兄妹相姦の鳩
塚本邦雄
いもうとよ髪あらふとき火あぶりのまへのジャンヌの黒きかなしみ
塚本邦雄
わが夏の髪に鋼(はがね)の香が立つと指からめつつ女(ひと)は言うなり
佐佐木幸綱
俺を去らばやがてゆくべしぬばたまの黒髪いたくかわく夜更けに
佐佐木幸綱
髪羞(やさ)し汝が挿しくれしひるがほもひかりあえかにゆふべは萎えぬ
河野裕子
君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る
河野裕子
うち群れて泳ぐを見ればアジア種の黒き髪かな吾子たちの髪
河野裕子
塚本邦雄の歌: 一首目は異様な光景ではないか。逆光の中で髪が紫に見える少女たちが、鳩の兄妹の相姦の場面を見詰めているという。二首目は、妹が髪を洗うのを見て、火炙りになる前のジャンヌ・ダルクの悲しみを連想したという。二首共に現代短歌を主張して虚構性が強い。
佐佐木幸綱の歌: 二首ともに女の恋人の挙動を詠っているようだ。二首目は、「ぬばたまの」は黒髪にかかる枕詞だが、下句は女が去ってゆく時刻を指しているのだろうか。
河野裕子の歌: 家族詠であり、いずれも分かりやすい。