天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー首(3/3)

  駅頭に出会いてマフラー巻きやればいたく素直にほそき娘(こ)の頸
                      久々湊盈子
  空なべて動くと見ゆる雲の原見上げる首は体(たい)を離れず
                      花山多佳子
*下句は当たり前のことを言っているのだが、それは上句の情景が当たり前で無かったことを言うためであろう。

  首に巻く腕というのを見ておりぬ腕のかなしき表情として
                      中川佐和子
*「首に巻く腕というの」という表現が、「腕のかなしき表情」に連結している。

  さくら狩薬草(くすり)狩けふ紅葉狩 眉目よき首のあらば狩らむよ
                     山埜井喜美枝
  いま出でむ太陽を待つ向日葵も老いもやさしき首をぞ持てる
                       鮫島 満
*日の出を待っている向日葵と老人の心情をそれぞれの首に見た。俗に首を長くして待つ、と言うが。

  洗う、切る、刎ねるもありて不穏なる首立てて行く疾風の中
                       道淵悦子
*「首を洗う」「首を斬る」「首を刎ねる」いずれも勤め人にとって不穏な日常用語である。

  ふかき疲労の暈(かさ)をぬぐため窓あけて夕闇に首を突っ込んでいる
                       加藤英彦
  かんたんなものでありたい 朽ちるとき首がかたんとはずれるような
                       佐藤弓生
*自分が死ぬときは簡単でありたい。人形が壊れた時に、首がかたんとはずれるように。誰しもの願望であろう。

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マフラー