天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー膝(2/2)

  はかなきに似て身辺にきしむおと膝をくづせるときに聞きたり
                       遠山光
  膝ひらいて搬ばれながらどのような恥しくなき倒されかたが
                       平井 弘
*膝を開いて倒れている状態は恥ずかしいのだ。

  春うらら女人の僧の正信偈 幼みたりの膝の神妙
                      勝井かな子
正信偈: 浄土真宗のお通夜や葬儀、朝晩の勤行でよく読まれる親鸞聖人の教え。お経ではない。

  おのが魂入れたるごとく膝の上に爺さま小さきバッグを持てり
                       安田純生
  膝にある五歳の疵あと胸にある十二歳(じふに)の曇りそののちの雨
                       高田流子
*結句の「そののち」は、十二歳のときのことか、それ以降のことか不明。十二歳の時に胸が曇って涙したのだろう、と解釈したい。

  膝の裏、内股(うちもも)あるいは脇の下 確保せよ確保せよビブラート
                       田中 槐
*ビブラート:  演奏や歌唱において音を伸ばすとき、その音の見かけの音高を保ちながら、その音の高さを揺らす方法。この歌は、ビブラートを確実に実行するときの膝、内もも
脇の下などに注意が必要であることを詠んだものと思われる。

  われもまた膝にちいさな泉あり膝で感じる夜の水深
                       小島なお
*膝で夜の深さを感じるとは、独特な感性か。

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