身体の部分を詠むー足(1/8)
足は古くは「あ」だけだった。文献時代に入り、「し」を伴う用法があらわれた、という。現代短歌では、足が多く詠まれている。
剣刀(つるぎたち)諸刃(もろは)の利(と)きに足踏みて死なば死ぬとも君に依りなむ
万葉集・柿本人麿歌集
*一首の意味は、「諸刃の鋭い刃に足を踏みつけて死ぬのなら死にもしましょう。あなたのためならば」
わが聞きし耳によく似る葦のうれの足痛(ひ)くわが背つとめたぶべし
万葉集・石川女郎
*一首の意味は、「噂で聞いた通りだったのですね。葦の穂先のようになよなよと足をひきずるあなた、せいぜいご養生くださいませ。」
いま二日三日も立ちなば刺(さす)竹(たけ)の君がみ足もよくなほらまし
良寛
*「刺竹の」(「さすだけの」とも)は、「君」「皇子」「大宮」「舎人」などにかかる枕詞。「立ち」「刺竹」などは縁語関係で使用している。二三日たてば、足がよくなることでしょう、といった内容。
大きなる足が地面(ぢべた)を踏みつけゆく力あふるる人間の足が
北原白秋
一日はたらきて疲れたる我の眼のまへに踊子の脚は並びて動く
佐藤佐太郎
きたへんとしたるわが足日々弱く救ひがたくして道にかなしむ
佐藤佐太郎
*佐藤佐太郎は、晩年は目黒に転居し、蛇崩川遊歩道(川は暗渠化されていた)での散歩を日課にしていた。蛇崩の歌は、作者の自然詠・生活詠の極致を示している、とされる。
常ならぬはやき目覚めにあひ触るる足は罪ふかきもののごとくに
山本友一
*隣に寝ている奥さんの足に自分の足が触れた時の感想であろう。