身体の部分を詠むー足(8/8)
胸裡(うち)にひと日砂丘(すなおか)波だてば歩くことなき足裏かゆし
引野 収
*引野 收(本名:浜田 弘収)は、高野山大学卒業後、高校教師となるが肺結核にかかり、以後病床で作歌。70歳で逝去。この生涯を想えば、一首はよく分る。
湿りもつ草生(くさふ)を過ぎて足裏は崖の巌(いはほ)の角(かど)にやすらふ
内藤 明
*「足裏」を主語にした歌。
ふゆぐれのさびしい儀式子を拭けばうす桃色の足(あ)裏(うら)あらはる
米川千嘉子
足の裏を刺激するとふ突つ掛けを履きて小路の一千歩ほど
足立敏彦
*健康グッズの「突つ掛け」なのだろう。
一日を胎児の重みささえしか今夜も妻の足裏をもむ
岩倉幹郎
裸足もてぬかるみを踏む快感をこのつちふまず記憶してゐる
太田玲子
月見えぬ真夜の浴室ひんやりと海色タイル足裏を刺す
里見佳保
足の裏遠くへやりて寝てしまふこのしづけさにひとり身はよく
水本協一
*初句二句は大げさな表現だが、要するに足を真っ直ぐに伸ばして寝たのだろう。誰に遠慮することない独り身なのだ。