天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー手(3/3)

  風に乗らば雲にもとどかむわがをとめ母が手引くは重たかるべし
                         五島美代子
*「わがをとめ」は、急逝した長女のことであろう。母たる作者が死に行く時、長女が手を引いて天に昇ってゆく情景を想像したようだ。

  卓上に塩の壺まろく照りゐたりわが手は憩ふ塩のかたはら
                          葛原妙子
  布に汚点(しみ)ある喫茶店などに入り来て蠅もわれらも掌を磨(す)る午後は
                          斎藤 史
*思わず笑ってしまう情景。

  群衆の中を去るとき護送車に手はふられ行くいたく静かに
                          近藤芳美
  てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれくる
                          大西民子
*「青空の見えぬ傷」に作者の思いがこもっているが、暗喩の歌で難解。

  掌(たな)うらを圧して葡萄をかもすとぞ夥しくて染まる搾取に
                          安永蕗子
  生きている不潔とむすぶたびに切れついに何本の手はなくすとも
                          岸上大作
*周知のように岸上大作は、國學院大學文学部に入学し、安保闘争に身を投じたが、失恋がもとで下宿の窓に首を吊って自殺した。安保闘争では、いくつもの学生派閥があり、離合集散していた。

  君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る
                          河野裕子
*夫君の永田和宏と持った家庭生活のある日の情景。

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葡萄絞り