天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

北原白秋の新生(7/9)

その他の特徴ある修辞
 これまでに取り上げなかった修辞として、オノマトペ、素材、人名・職業などにつき、代表的な言葉だけではあるが、三歌集『桐の花』、『雲母集』、『黒檜』で比較した結果を以下に示しておく。

オノマトペ

『桐の花』 あかあかと、しみじみと、きりはたりはたりちやうちやう、
      たらんてら、ちりからと、さくさくと
『雲母集』 かうかうと、ぬつと、はつたりと、むくりむくりと、ごろりと、
      しんしんと、けつけつと
『黒檜』  ぴしりと、ほたほたと、くくくと、とよとよと、たのたのと、
      じじと、ひらら、ひたひたと
■感情表現
『桐の花』 かなし、さみしき、なつかし、泣かまほし、いとほし、くるし
『雲母集』 かなし、寂しき、なつかし、いとし、あはれ、麗らか、一心に

『黒檜』  あやなし、すがすがし、かなしも、愛し、あはれ、おぼつかな、
      さぶしき、めでたし
■素材(動物)
『桐の花』 春の鳥、斑猫、金糸(カナリ)雀(ヤ)、黒鶫、おかめ鸚哥、孔雀、

      へら鷺、青蜥蜴
『雲母集』 大鴉、雲雀、鶺鴒、海亀、鱶、鰯、牛、蠣、大鯛、蛸、烏賊、鮪、豚
『黒檜』  鼠、雀、蛙、春蝉、蛍、緋秧鶏(ひくひな)、蚊、夕河鹿、鰄魚(さより)
■素材(植物)
『桐の花』 欝金さくら、朱欒、ヒヤシンス、あまりりす、ヂキタリス、

      おいらん草、鶏頭の花、ロベリヤ、ダリヤ、ぐろきしにあ
『雲母集』 みるめ、馬鈴薯の花、キャベツ、青豌豆、じゅんさい、白菊、

      狐のかみり、棕櫚、赤たうがし、人参、甘藷畑、
『黒檜』  合歓、蘭、のうぜんかづら、夕顔、矢筈、条花(すぢばな)、白樺、

      むくろじの実、木蓼(またたび)、秋海棠の花、紫雲英田(げんげだ)
■素材(物象)

『桐の花』 パノラマ、ジンの酒、クラリネット、ちゃるめら、金口の露西亜煙草、

      カステラ、コロロホルム、清元、常磐
『雲母集』 手、足、渚、漣、入道雲、朝霧、蒸気船、馬車、道陸神(だうろくじん)、

      闇、不二、投網、かぢめ舟、閻浮檀金、馬頭観世音
『黒檜』  月夜、あかり戸、眼、霜、暁、未明、火桶、人づゑ、手毬、木魚、

      東宝撮影所、戦車、旋盤、野鳥レコード、揚子江ノモンハン
■人物・職業
『桐の花』 西亜の地主、踊子、道化、わかき大工、宝石商、女手品師、円喬、

      クリスチナ・ロセチ、ラムボオ
『雲母集』 海人が子、女子、巡礼、北斎、秋成、親鸞上人、恵美須三郎、

      行基菩薩、種蒔人、ミレエ
『黒檜』  盲、女童、老兵、山椒太夫、頼豪阿闇梨、良寛、利休、塙保己一

      鑑真和上、頼豪阿闇梨

「:::と」の形のオノマトペをよく使用しているとか、「さみし」「かなし」「あはれ」といった感情表現の修辞は共通的なものが多いが、オノマトペと歌に詠む素材・人名・職業については、『雲母集』の生命賛歌、光明礼賛の特徴がはっきり出ている。

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北原白秋歌集』(岩波文庫