故郷を詠む(3/9)
忘れじとちぎりて出でしおもかげは見ゆらむものを故郷の月
新古今集・藤原良経
*「お互いに忘れないと誓って旅立ったが、私の面影は古里の月にも映って見えているだろうに。(ちっとも便りが来ない。)」
吉野山花の古郷(ふるさと)あとたへてむなしき枝に春風ぞふく
新古今集・藤原良経
月見ばとちぎりて出でしふるさとの人もや今宵袖ぬらすらむ
新古今集・西行
*「月を見たらお互いのことを思い出そうと約束したが、古里のあの人も今夜の月を見て私を思い出して涙で袖を濡らしているだろうか。」
ふるさとは見し世にも似ず褪(あ)せにけりいづち昔の人ゆきにけむ
山家集・西行
あともなく雪ふるさとは荒れにけりいづれむかしの垣根なるらむ
新古今集・赤染衛門
*「人の通う跡も見えぬまでに激しく降る雪。どこが昔の垣根なのでしょう。」
詞書「元輔が昔住み侍りける家のかたはらに、清少納言住みけるころ、雪のいみじく降りて隔(へだ)ての垣も倒(たふ)れて侍りければ、申(まうし)つかはしける」が参考になる。
ふる郷の宿もる月にこと問はむわれをば知るやむかし住みきと
新古今集・寂超
*寂超: 平安時代後期の僧侶・貴族・歌人。俗名は藤原為経。同じく出家した兄弟の寂念・寂然と共に大原三寂・常盤三寂と呼ばれた。