故郷を詠む(8/9)
ものみなの青きふるさと老いてなほ親いますゆゑかなしきふるさと
岡野弘彦
山蒼きわがふるさとに帰りきて逢ふ人もなく家ごもりゐる
岡野弘彦
*前の歌で詠んだ老いた父母もいなくなったふるさとに帰ってきて、家にこもっているのだ。
おおははの死にて久しきふるさとよ目つぶれば常に雪降りており
馬場あき子
はればれと夏潮照ればこころがなし死にて血縁の絶えしふるさと
生方たつゑ
石臼のずれてかさなりゐし不安よみがへりつつ遠きふるさと
大西民子
*上句の情景が、今となっては遠い故郷の思い出なのだろう。
時化あとに寄り木を背負う母と子の影が尾を引く故郷の秋
吉田秋陽
*時化(しけ): 風雨のために海が荒れること。
故郷は秋荒涼と老い母の鍬打ちあてしものの音澄む
梅津英世
氷枕に流れてやさしふるさとの新河岸(しんがし)川の春の水音
平林静代
*作者は風邪の発熱で氷枕をしているのだろうか。そこに近くを流れる新河岸川の春の水音が聞こえてくるようだ。
新河岸川: 埼玉県南部を流れる川。川越市北部や伊佐沼などを水源とする。武蔵野台地を南流し、東京都北区岩淵水門で隅田川に合流する。長さ26キロ。