天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蕪村俳句と比喩―はじめに

 与謝蕪村の俳句の大きな特徴は、和漢の古典、能や狂言、伝説、諺などを背景に現実の情景をモディファイしているところにある。背景を読み取れないと俳句の鑑賞は無理なのである。前書きのある句も多いのだが、詳細に思い至るには相当の知識が必要。なお蕪村を称揚した正岡子規は、喩の表現が豊富になったのは、蕪村を嚆矢とする、と指摘している。
 あらためて比喩表現とは、ある状態についての説明を、知覚・感覚・感性などの働きから導かれる心像(イメージ)によって果そうとする表現法のことである。一般に比喩は、本義としての原想念の背景に喩義としての新想念を重ね、単なる指示的、客観的な叙述を越えた含意性豊かな表現の世界を創り出すことができる(イメージの重層性)。(堀切実『表現としての俳諧岩波書店
 分析に当たっては、藤田真一、清登典子編『蕪村全句集』おうふう(2871句を対象)に拠った。比喩の内訳は、おおむね次のようになっている。
  直喩:45句、 暗喩(隠喩):51句、 寓喩(諷喩):52句、 換喩:7句、 
  提喩:14句、 声喩(オノマトペ): [擬音]9句 [擬態]6句、 
  活喩(擬人法):87句
比喩の句は全部で271句(9.4%)となっている。 活喩(擬人法)が目立って多いが、この傾向は蕪村に限らない。俳諧の文芸であることに起因している。

 なお本シリーズは、26回からなる。

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『蕪村全句集』(おうふう)   『表現としての俳諧』(岩波書店