天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(1/5)

 暗喩は、直喩の「ごとき」「ような」などを省略して、直接ことばとことばを衝突させ、想像力を喚起させる修辞法。

     剃(そり)立(たて)て門松風やふくろくじゆ
*福禄寿の長頭のごとき剃り上げた門松を立てて新年を待つばかり。すがすがしい風が吹いてくるだろう。

     かげろうの火加減もよし梅の花
*白梅が一面真っ白に咲き誇っているさまを、陽炎の真っ盛りに立ち上がるのになぞらえた。

     春雨や鶴の七日をふりくらす
     春風や浪を二見(ふたみ)の筆(ふで)返(がへ)し
     帰る雁有楽(うらく)の筆の余り哉
*雁行して飛ぶ雁のえがく文字は、織田有楽斎が徳川方に送った密書の筆余りなのだろう。

     独鈷(とつこ)かま首水かけ論の蛙かな
     二つ三つ烏帽子(えぼし)飛交(とびか)ふ蛙かな
*蛙の声の騒がしさを、貴族たちが口論して烏帽子の二つ三つが飛ぶ様子に喩えた。

     紅梅の火加減もよき接木哉
     畑(はた)に田に打出の鍬や小槌(こづち)より
     苗代や吹く升掻(ますかき)のはかりごと
*苗代を升に見立てた。苗代に生えそろった苗が風になびいている。まるで升掻でならして、秤にかけたかのように。

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烏帽子