天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(1/5)

 寓喩(諷喩)は、譬喩、寓意ともいう。他の事物や動物、物語などにたとえて、意味を強めあるいは暗示する表現法。おなじ系列に属する隠喩を連結して編成した言述。
和漢の古典や歴史、伝説に精通していないと理解が難しい。


     鶯はやよ宗任(むねとう)が初音かな
*梅はよく知っていた安倍宗任平家物語・剣巻)にとって、鶯の声は初めてだろう、として初音を強調した。鶯をもってきたところが蕪村の工夫。

     柳にもやどり木は有(あり)柳下恵(りうかけい)
     つなたちて綱がうはさや春の雨
*「つな」は京一条戻橋の妓女の名前。つなさんが立って行ってしまった後の座敷はでは、客たちがひとしきり綱のうわさ(鬼を退治した渡辺綱に及んでいよう)をしている。

     股立(ももだち)のささだ雄(を)ちぬ雄春の雨
*ささだ雄、ちぬ雄: うない乙女を争って、三人とも死んだ説話中の人物。万葉集、大和物語などにでている。

     雉子啼(なく)や草の武蔵の八(はち)平氏(へいじ)
*草の武蔵の八平氏: 草深い坂東に割拠した八つの平氏をさす。雉子の勇ましい鳴き声に平氏の群雄が立ち上がった様子を想った。

     夕雲雀鎧(よろひ)の袖をかざし哉
     熊谷(くまがい)も夕日まばゆき雲雀哉
     耕や苛(か)政(せい)も聞(きか)ず二百年
     陽炎や烏帽子(えぼし)に曇る浅間山
     擲(てき)筆(ひつ)の墨をこぼさぬ乙鳥(つばめ)哉
*擲筆: 空海が応天門の額に一点を書き忘れ、下から筆を投じて補筆したという逸話。燕は墨も落とさないで一点を加えている、と見立てた。

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雉子