天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(3/5)

     賀茂堤太閤(たいかふ)様(さま)のすみれかな
*太閤が作らせた賀茂堤のおかげで、桃花水(桃の花の咲くころ、氷や雪が解けて大量に流れる川の水)の時節になっても洪水の心配がなく、すみれが咲いている。

     法(ほふ)然(ねん)の数珠(ずず)もかかるや松の藤
     炉塞(ふさい)で南阮(なんげん)の風呂に入(いる)身哉
*南阮: 晋の阮威・阮籍ら(竹林の七賢)のこと。
冬以来の炉を塞いで、ほっとして風呂に入る気分は、満ち足りたもの。かの南阮もこんなだったに違いない。

     ゆく春や横河(よかは)へのぼるいもの神
*いもの神: 疱瘡神。 横河: 叡山三塔の一で、厄除けの護符は疱瘡に利くとされた。

     ゆく春や川をながるる疱(いも)の神
*春中はやった疱瘡も治まり、祀っていた赤紙など供物が川を流れて行く。

     鞘走(さやばし)る友(とも)切(きり)丸(まる)やほととぎす
     広庭のぼたんや天の一方(いつぽう)に
     朝比奈(あさひな)が曾我を訪ふ日や初がつを
*朝比奈三郎義秀が曾我十郎を訪れた際に、初鰹をもっていっただろう、と蕪村が想像して詠んだ。

     射干(ともし)して囁(ささや)く近江やわたかな
*近江やわた: 曾我物語にでてくる近江小藤太と八幡三郎のこと。二人は待ち伏せして曾我兄弟の父・河津三郎を射殺した。句は、照射をしかけ得物を待ちながら囁き合う猟師ふたりの様子を近江と八幡の状況に重ねた。

     実方(さねかた)の長櫃(ながびつ)通るなつ野かな

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賀茂堤