蕪村俳句と比喩―提喩
提喩は、全体を部分で代表させる喩法で、換喩の一種とも見える。象徴・暗示とも。
梅折(をり)て皺手(しわで)にかこつかほり哉
*皺手で老人を象徴、代表させている。
養父入(やぶいり)や鉄漿(かね)もらひ来る傘の下
*傘の下で人がいることを暗示。
春雨の雫(しづく)うれしき烏帽子(えぼし)哉
足よはのわたりて濁るはるの水
ふどしせぬ尻吹(ふか)れ行(ゆく)や春の風
出代や春さめざめと古葛籠(つづら)
*出代(でがはり): 奉公人が交代すること。句は、長年仕えた下女が古葛籠を持って名残惜しさに泣いている情景。春さめ、降る が掛けられている。
花ちりて身の下やみやひの木笠
*芭蕉句「吉野にて桜見せうぞ檜木笠」を背景に、吉野へも行かず終いで、桜の花は散り木下闇になった。この笠は自分の身の闇をなすのみだ、と詠む。
麦刈(かり)ぬ近道来ませ法(のり)の杖
鮓の石かろき袂の力かな
佐保(さほ)川のほたるに遊ぶ上草履(うはざうり)
秋の野や鳥うたんとてゆく袂(たもと)
足よわのわたりて濁るはるの水
痩脛(やせずね)の毛に微風有(あり)更衣
雨後の月誰(た)そや夜ぶりの脛(はぎ)白き