母を詠む(4/12)
母が腹いでたる今朝は知らねども母を亡くせし日の朝を憶(おも)ふ
尾山篤二郎
ははそはの母を焼きたる煙かも流るる水にうつる白雲
尾山篤二郎
*ははそはの: 同音の反復で、「はは(母)」にかかる枕詞。
母に受けしことばを売りて一生すぎその母の如くただ世を恐る
土屋文明
なほものにすがらまくするわが胸を母とたのみてねむる吾子かも
五島美代子
苺たべて子のいき殊に甘く匂ふ夕明り時を母に寄り添ひ
五島美代子
鑑真の彫像をめぐりつつ思ふ母の遠きを国の遠きを
鹿児島寿蔵
はたらきて老いてめしひて一こともくるしといはぬ母を思へり
鹿児島寿蔵
たつた一人の母狂はせし夕ぐれをきらきら光る山から飛べり
前川佐美雄
*下句は作者の当時の感情を想像した表現。
うすぐらき納戸(なんど)の隅に亡き母のおはぐろの香(か)のただよへるかな
岡本かの子
掌(たなぞこ)に菓子のせしまま眠りたまふ母うへよ吾はとほく来しなり
生方たつゑ