天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

母を詠む(4/12)

  母が腹いでたる今朝は知らねども母を亡くせし日の朝を憶(おも)ふ
                     尾山篤二郎
  ははそはの母を焼きたる煙かも流るる水にうつる白雲
                     尾山篤二郎
*ははそはの: 同音の反復で、「はは(母)」にかかる枕詞。

  母に受けしことばを売りて一生すぎその母の如くただ世を恐る
                      土屋文明
  なほものにすがらまくするわが胸を母とたのみてねむる吾子かも
                     五島美代子
  苺たべて子のいき殊に甘く匂ふ夕明り時を母に寄り添ひ
                     五島美代子
  鑑真の彫像をめぐりつつ思ふ母の遠きを国の遠きを
                     鹿児島寿蔵
  はたらきて老いてめしひて一こともくるしといはぬ母を思へり
                     鹿児島寿蔵
  たつた一人の母狂はせし夕ぐれをきらきら光る山から飛べり
                     前川佐美雄
*下句は作者の当時の感情を想像した表現。

  うすぐらき納戸(なんど)の隅に亡き母のおはぐろの香(か)のただよへるかな
                     岡本かの子
  掌(たなぞこ)に菓子のせしまま眠りたまふ母うへよ吾はとほく来しなり
                     生方たつゑ

 

f:id:amanokakeru:20200505070620j:plain

鑑真の彫像