母を詠む(9/12)
秋草の花咲く道に別れしがとぼとぼと母は帰りゆくなり
岡野弘彦
夕まぐれ涙は垂るる桜井の駅のわかれを母がうたへば
岡野弘彦
長夜の闇にまぎれ入らんとする母を引戻し引戻しわれはぼろぼろ
山本かね子
生きものを飼はなくなりて内外(うちそと)の清(す)みゆく家に母は火を継ぐ
柏崎驍二
いく日会わねばいく日を言いて白桃のつゆのしとどを母と分つも
新免君子
われを捨てて母の去りたる夜の汽車が今も雪夜を走りて止まぬ
鈴木鶴江
うすら陽は母が常臥せし跡しるき畳を照らし我を照らせり
山中登久子
掌に載せて慈姑(くわゐ)のいろをこよなしといひたる母は死期近かりき
浅野まり子
*慈姑: 中国南部が原産地という。日本へは平安時代には伝わっていたらしい。
眠りゐると思ひし母が目をあけて病み痩せし掌をかざしてゐたり
佐々木允子
母がそこに眠れる如きゆたかさに白き牡丹が昼を咲きおり
三井 修
