天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

母を詠む(11/12)

   黒びかりせし鯨尺和箪笥の底に母ある如く眠らす
                     山田さくら
鯨尺: 江戸時代から、反物を測るのに用いられてきた和裁用の物差し。1尺は約38センチ。

  車椅子に乗りたる母を抱き上げて散り来る桜の光を纏ふ
                     小野亜洲子
  赤き赤き大きな梅干しひとつ載せ食済ませたり母の一椀
                     梅内美華子
  てのひらを窪め待ちいる母の手に錠剤五つ並べて置きぬ
                     楊井佳代子
  弟に抱きて欲しと母せがみ心満てるか次の日に逝く
                      渡辺純子
  マリオネットの糸放したるごとくにもふはりと母がくづほれてゆく
                      中野冴子
*マリオネット: 人形劇でよく使われる糸で操る人形(糸繰り人形)。

  海鳴りを遠く聴く夜はもの寂し来迎待つとふ母を想ひて
                      南 丘華
  わさびの芽浸しながるる泉にて母の末期(まつご)の水を汲みたり
                      小谷 稔
  かくて母はわれの面輪に存(なが)らふる夜の鏡に髪梳きをれば
                      米田律子

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和箪笥