金木犀香り漂う前庭に窓開けはなち母を逝かしむ
田島定爾
戦死せし父の墓へと母葬り長き歳月埋めまゐらせむ
小久保みよ子
七夕に母よデートをしませんか二歳で別れたかなしみ聴きます
布施隆三郎
梅の咲く湖畔に母をいざなひぬわれはこの背に負はれたりしか
上田善朗
つかまりて大地に立たむをさなごのさまにつかまり母坐りゆく
中野昭子
施設へと戻りし日のまま日めくりは年を越したり母の小部屋は
林本政夫
意地悪もいひつつ洗ひやりし日の母の頭を指は記憶す
下田秀枝
[注]「母を詠む」シリーズの作品群は、涙なくしては読めないものであった。余分な注釈は不要であったろう。