天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

子を詠む(2/6)

  世の中にさらぬ別れのなくもがな千世もとなげく人のこのため
                  古今集在原業平
*「 世の中に避けられない別れというものがなければよいのに、千年でも生きて欲しいと願う子のために。」

  人の親の心はやみにあらねども子をおもふ道にまどひぬるかな
                  後撰集藤原兼輔
  夜の鶴みやこの内にこめられて子を恋ひつつもなき明かすかな
                   詞花集・高内侍
*「夜の鶴は籠の中で子を思って哭いたというけれど、私は都の内に足止めされて、子を恋い慕いながら哭き明かすのだなあ。」

  いとほしや見るに涙もとどまらず親もなき子の母を尋ぬる
                金槐和歌集・源 実朝
*戦の絶えない時代ながら、親を亡くした童子が、母を求めて泣いている姿を見ると、実朝
ならずとも涙が止まらない。

  父君よ今朝は如何にと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり
                      落合直文
  子をまもる夜のあかときは静かなればものを言ひたりわが妻とわれと
                      島木赤彦
  今はわれ子が名を墓碑に刻まむか戦病死せしかなしき子が名
                      窪田空穂
  病もつ一生(ひとよ)を終り今こそは吾子は眠りをほしいままにせり
                      木下利玄

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夜の鶴