子を詠む(3/6)
叱りつつ出(いだ)しやりたる子の姿ちひさく見ゆる秋風の門(かど)
岡本かの子
大(おほい)なる声してよべば大(おほい)なる月いでにきと子のつぐるかな
茅野雅子
ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる
斎藤茂吉
そむかれむ日の悲びをうれひつつ百日(ももか)に足らぬ子をいだくなり
新井 洸
親と子とはなればなれの心もて静かに対(むか)ふ気まづきや何(な)ぞ
石川啄木
君とゐてわが生(う)ままくの子を欲しと思ふ日のありかなしき極(きは)みに
原阿佐緒
*原阿佐緒は若くしてさまざまな恋愛問題を引き起こした。小原要逸との間に一児(阿佐緒の長男・千秋)、画家庄子勇と結婚し一児(阿佐緒の次男・保美)をもうけるも離婚。高名な物理学者石原純との不倫恋愛もあった。
わが乙女まことにふかく耀かにわくごはらみてひた肥えにけり
尾山篤二郎
*わくご: 若子、若児。
時代ことなる父と子なれば枯山に腰下(お)ろし向ふ一つ山脈(やまなみ)に
土屋文明
若かりしわが世に張りをあらしめし子といふものよあはれ子の恩
服部忠志
三人(みたり)の娘(こ)すべて嫁がせわが姓もわれの一代(ひとよ)に消えゆくらむか
宇塚一郎