子を詠む(5/6)
駈けてくる吾子抱きとめむこの胸は凪ぎつつ港とならねばならぬ
高尾文子
癇の虫封じ終りて戻る道ぴつたりと頬つけし背の子はぬくし
湯沢千代
あたたかき息して眠る吾子二人 月下に青梅ぎっしり実る
上田 明
子を死なしめしけだものに似る悲しみを押しこらへつつ夜を帰るなり
岡野弘彦
黒板に迷子のわが子の名を書きて又先へ行く夢の廊下を
花山多佳子
生さぬ子と吾子と七人育てたる古家に独りの今の平安
石橋直子
*下句がなんとも哀しい。
ゆふぐれの雪けぶり立つあなたより雪繭になりし吾子まろびくる
立野朱美
せかせかと生きて育てし末の子の土器に心を寄せゆくあはれ
藤川弘子
もう抱けぬ重さの吾子の弁当に取りておくいちばん大きい苺
平岡三和子
吾子の死を空の高みにひぐらしの悼みて鳴くと夫の言ふかも
斎藤佐知子
*ひぐらしの鳴き声に亡き子供を思う夫婦の姿。