天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

祖父母を詠む(2/3)

  祖母が口くろくよごれて言ふきけば炭とり出でてうまからずとぞ
                        片山貞美
  祖父また父さびしき検事近眼のこの少年の楽器を愛す
                        大野誠
  くびらるる祖父がやさしく抱きくれしわが遥かなる巣鴨プリズン
                        佐伯裕子
*作者の祖父は、陸軍大将・土肥原賢二A級戦犯として巣鴨プリズンで絞首刑に処された。享年68。

  死の際(きわ)にああま白しと祖母(おおはは)の言いし五月よまことま白し
                        佐伯裕子
  自死の前の祖父と食みしよ悲しみの量(かさ)とも実りし乳の実いくつ
                       春日井 建
*乳の実: イチョウの実、ぎんなん。

  金沢の「天狗舞」と呼ぶ酒に父の父へと血を手繰り寄す
                       中川佐和子
天狗舞: 石川県の株式会社車多酒造という酒蔵が造った酒。白山からの伏流水と地元産の米でつくる。天狗舞の多くは「山廃仕込」製法である。

  母に打たるる幼き我を抱へ逃げし祖母も賢きにはあらざりき
                        土屋文明
  乳(ちち)足らぬ母に生れて祖母の作る糊に育ちき乏しおろかし
                        土屋文明

 

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日本酒「天狗舞