天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

祖父母を詠む(3/3)

  月に一度山の小屋より下り来る祖母を恐れき山姥のごと
                        永井保
  この秋も祖母は芒の白髪を風に委(まか)せてあの丘の上
                        相沢光恵
  祖母よりの便りひらけば坂下のポストへ向かふ杖の音聴こゆ
                        松本典子
*祖母が送ってくれた手紙をひらく時に、その手紙を出しにゆく祖母の姿が浮かんだのだ。

  やがてわれを忘れてしまう祖母といて桜並木の先までを行く
                       後藤由紀恵
  ぼんたんを砂糖で漬ける祖母がいていつもうなずく祖父がいるなり
                        小島なお
*ぼんたん: ザボンの別名。

  経糸は律儀横糸勝ち気にて紬を風のやうに着た祖母
                       米川千嘉子
*紬(つむぎ): 紬糸で織られた絹織物。蚕の繭から糸を繰り出し、撚りをかけて丈夫な糸に仕上げて織ったもの。

  西の井戸埋めてはならぬといく度も神託のごと祖母の白声
                       春日いづみ
*白声(しらこえ): 異常に高い声。りきんで出す声。かなきり声。

 

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ぼんたん