天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

こころざし(1/3)

 「こころざし」という言葉の響きにロマンと心の余裕を感じる。こころざし(志)とは、➀心に思い決めた目的や目標、➁相手のためを思う気持、➂謝意や好意などを表すために贈る金品 などを意味する。類似の言葉に、意志、素志などがある。

  こころざし深くそめてしをりければ消えあへぬ雪の花と見ゆらむ
                   古今集・よみ人しらず
*「気持を深く持っているので、消えきらない雪が花と見えるのであろう。」

  心ざし有りてのみやは人を訪ふなさけはなどと思ふばかりぞ
                       山家集西行
  こころざし低からねども或る日には雲の下ゆく雲が苦しも
                        前川佐美雄
  こころざし低きあはれは知りながら陽翳る舗道を見おろして立つ
                         島田修二
  花こぼす槐(ゑんじゆ)の傍に暦売るこころざしみな痩せしとおもふ
                         大野誠
*槐: エンジュはマメ亜科エンジュ属の落葉高木。開花は7月。
この歌で謎な点は、エンジュの花は夏季なのに、その頃暦を売る、という季節違いの行為である。この暦は、今年のものなのか来年のものなのか。多分今年の売れ残りの暦なのだろう。あえてそれを売るというこころざしを指している。暗喩とすれば了解できよう。

  葉はすべて棘(とげ)と化しつつ夜を遁るるこころざしいつか固からむとす
                         大野誠
  志はるかなりわれ何遂げし墓山はいま白雨のそそぎ
                         春日井瀇

 

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