天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

卯の花(3/4)

  雪のいろをぬすみて咲ける卯の花はさえでや人に疑はるらむ
                   詞花集・源 俊頼
*「雪の色を盗んで咲いた卯の花は、冷たくないから人に疑われるだろう。」

  むらむらに咲けるかきねの卯の花は木の間の月のここちこそすれ
                   千載集・藤原顕輔
  ゆふ月夜ほのめくかげも卯の花のさける垣根はさやけかりけり
                   千載集・藤原実房
*「夕月のほのかにさす微光の中でも、卯の花の咲いている垣根は、くっきりと明るいのだなあ。」

  卯の花のむらむら咲ける垣根をば雲間の月のかげかとぞ見る
                   新古今集白河院
*「卯の花が群がり咲いている垣根を、雲間から漏れ落ちる月の光かと見る。」

  夏衣干す間も知らず玉川の井手越す波に咲ける卯の花
                 続後拾遺集・藤原為藤
*井手: 田に水を引き入れるため、川の流れをせき止めてある所。

  白妙の月の桂の種とりて卯花垣は植ゑしとぞ見る
                   黄葉集・烏丸光広
*月の桂: 古代中国の伝説で、月の中に生えているというカツラの木。月桂(げっけい)。

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桂の種