天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー和服(2/3)

 袷(あわせ)とは、単衣(ひとえ)に対し、表布と裏布とをあわせ、1枚の布のように仕立てた衣服をいう。秋から春先にかけて用いる。

  袷には下着重ねよとうるさく言ふ者もなくなりぬ素直に着よう
                       土屋文明
  夏衣粋紗(すいしや)のすそをひるがへしわれは女(め)なれば女坂ゆく
                       筒井紅舟
*粋紗: 玉繭からとれる玉糸を経糸に用いて、強い撚りをかけて透き間をあらわした盛夏用の絹織物。

  夏のかなしみの一つぞ蚊絣の千匹の蚊のこゑなき和讃
                       塚本邦雄
*蚊絣(かがすり): 蚊が群がって飛んでいるように、細かい十字の模様のある絣。なお、絣はかすれたような部分を規則的に配した模様のある織物のことで、飛白とも書く。

  母が着し藍の薄物似合ひそめ女(をみな)の枷もやうやくに過ぐ
                      富小路禎子
*母が着ていた藍の薄物が似合う年ごろになった。女を意識させるような心理的な束縛から解放された、という。

  簡潔な男結びに帯を締め身のふさはしく生きてゆくべし
                       野江敦子
  ほ、といひてそれぎり夏のうすものはうすむらさきが匂へるやうで
                      池田はるみ
  とり出でてひと夜吊りおく白麻の夏衣薄明を戦ぎはじむ
                       中野照子

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蚊絣