天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー和服(3/3)

 甚平は「甚兵衛羽織」の略。名前の由来は、諸説あるようだ。丈が短く、袖に袂がなくて衿と身頃(上衣の胴部を包む部分)につけた付け紐は、右を表左は裏側で結び、ふつうの和服のように右前に着る。
 丹前は、防寒のための部屋着の一種。厚く綿を入れた広袖 (ひろそで) の着物。丹前風呂に通う客の風俗からこの名が出た。京坂に起こり、江戸の「どてら」に似る。

  鉄柱は立ちあがりをり甚平を着ても脱ぎても暑き地上に
                       竹山 広
*鉄柱の擬人化であるが、作者を重ねているようでもある。

  丹前に手を突つこみて二三回庭をうろつき運動終る
                       竹山 広
  藤衣などか着るべき逝きたるを紛らはしつつ過ぐすこの身に
                       西川修子
*藤衣: 藤づるなどの繊維で織った織り目の粗い粗末な衣類。麻で作った喪服。
などか: 疑問や反語の意を表す。多く下に打消の語を伴って「どうして…か。」「どうして…か、いや、…ない。」

  脱ぎすてし夏衣より声立ちて草と契れといふにあらずや
                       水原紫苑
*夏衣を脱ぎ捨てて裸になったところからの発想と思われる。

  花房のむらさき淡く咲きそめし藤は母からのわが女紋
                       尾山 香
  京の町に君あがなひし帯〆の手になじみきて結びやすかり
                       永石季世
*夫あるいは恋人が、京都で帯〆を買ってきてプレゼントしてくれたのだろう。感謝の気持ちが詠まれている。

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甚平