天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー背広・喪服

 背広は、男性用の上着で、折襟カラーと呼ばれる襟を持ち、着丈が腰丈のもの。また、この上着と共布のズボンからなる一揃いのスーツを差すことも。もちろん西洋伝来のものである。明治維新を機に広まった。
 喪服は、葬儀や法事などの際に着用する礼服で、まれに藤衣や喪衣(もぎぬ、もごろも)などとも呼ぶ。古来、東洋では喪服は白を基調としていたらしい。日本でも江戸時代まで大坂では、喪服は喪主に限らず、白が普通であったという。現代では、喪服は黒や薄墨色が一般的になっている。

  紺の背広オーダーなしてこの秋は待つことをこそたのしまんと
                        上野久雄
  洋服の裏側はどんな宇宙かと脱ぎ捨てられた背広に触れる
                        永井陽子
  試着すればこれしきのもの ウインドーに小粋に見えしグレーの背広
                        安田純生
  ハバロフスクの曠野の空港のかぎろいに黒き喪服は日本の遺族ら
                        近藤芳美
*シベリア抑留中に亡くなり、その地に葬られた日本兵たちの遺族が、慰霊に訪れた際の情景。

  われのみが遠き過去より来しおもひ喪服着て昼の電車にをれば
                       小島ゆかり
  湿りたる喪の帯とけばうらがはにあざやかに父の描(か)きしはくれん
                        佐藤慶
  形どほりの別れ告げ来つ喪服脱ぎてどつと悲しき君は死者なり
                       山本かね子
*二句目、四句目の二か所で切れる、と読めば分かりやすい。

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喪服