天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー帯・紐(1/2)

 帯は、着物の上から腰の上に巻いて結ぶことで、着物を体に固定させる幅広紐状の装身具。その始まりの形態は、未開社会において裸体に腰紐のみを巻き、そこに狩猟で用いる道具を挿していたことであろう。ちなみに帯には、多種多様な派生語、転義語がある。例えば、時間帯、価格帯、帯グラフ、吸収帯 等々。

  一重(ひとへ)のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべくわが身はなりぬ
                 万葉集大伴家持
*意味は「あなたがただ一重にだけ結ぶ帯さえ、三重に結ばねばならないほど私は痩せてしまいました。」(新古典大系による。)

  大君(おほきみ)の三笠の山の帯にせる細谷川(ほそたにがは)の音の清(さや)けさ
                 万葉集・作者未詳
*「大君の」は「三笠」の枕詞なので訳す要なし。「三笠の山の帯になっている細谷川の川音はなんと清らかなことよ。」という意味になる。

  旅にすら帯解くものを言(こと)繁み丸(まろ)寝(ね)われはす長きこの夜を
                 万葉集・作者未詳
*帯解く: 異性と同衾する。丸寝: 帯も解かず衣服を着たまま寝ること(独り寝)。
「旅寝で紐を解くこともあるのに、噂が激しくて私は解かずひとり寝る。長く寂しい秋の夜を。」

  わが背なを筑紫へ遣(や)りて愛(うつく)しみ帯は解かななあやにかも寝(ね)も
                 万葉集・服部呰女
*防人の夫の歌に対する返歌。大まかな意味は「恋しいあなたを筑紫に送り出した後は、貞節を守って一人寝を続けます。」

f:id:amanokakeru:20200616071326j:plain