衣のうたー袖・袂・襟(5/11)
沢に生ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖はぬれけり
新古今集・藤原俊成
*「沢に生える若菜ではないが、むだに年をつむほどにこの袖は濡れてしまったことだ。」(新日本古典文学大系より)
春ごとに心をしむる花の枝に誰がなほざりのそでか触れつる
新古今集・大弐三位
*「春が来るたび、あなたの家の梅の花を心待ちにしていました。その枝に、誰が袖を触れてしまったのでしょう。私みたいに深い思い込みもなく、いい加減な気持で…。」
梅の花たが袖ふれしにほひぞと春やむかしの月にとはばや
新古今集・源 通具
*「梅の花は誰の袖が触れた時の匂いなのだろうと、昔のままの春の月に、訊ねてみたいものだ。」
この程は知るも知らぬも玉鉾の行きかふ袖は花の香ぞする
新古今集・藤原家隆
*玉鉾の: 「道」を導く枕詞。ここでは、道が暗示されている。
「この時節は、知った顔も見知らぬ人も道で行き交う人の袖からはことごとく花の香がするよ。」
散りぬればにほひばかりを梅の花ありとや袖にはる風の吹く
新古今集・藤原有家
*「散ってしまったので今は移り香が残っているにすぎないものを、まだ梅の花が咲き残っていると思ってか、袖に春風が吹くよ。」
松が根に尾花刈り敷き夜もすがら片敷く袖に雪は降りつつ
新古今集・藤原顕季
*「松の根元に薄の穂を刈って敷き、夜通し一人寝の衣の袖に雪が降りかかっている。」